長崎大学 アクティブ・ラーニングの全学的推進と教学マネジメントシステムの構築
テーマⅠ・Ⅱ複合型
事業期間:2014年度~2019年度
【取組の概要】
長崎大学では、「学士力という付加価値を実感させる」教育への大胆な変革を意図して、2012年度よりモジュール方式(全学モジュール)の教養教育を導入した。モジュールとは、現代的テーマの下にパッケージ化された科目群のことであり、学生は提供されるモジュールテーマの一つを選択し、アクティブ・ラーニング(AL)を通して、本学のディプロマ・ポリシー(DP)で求められている各能力の育成を行う。モジュール方式教育の最大の特長は、1年半の間、教員と学生が学びの共同体を形成する点にあり、それは新しい学び(=AL)を開発、進化させる絶好の環境を提供するものである。本事業では、学長直轄の推進体制のもと、全学モジュールに重点化して、効果的・効率的なALの開発・進化・普及を図るとともに、学修成果の可視化を実現することにより大学全体の学士教育改革を目指す。
【取組のポイント】
➢学長を中心としたALの推進体制を作り、FD(ファカルティ・ディベロップメント)を展開する。
➢全学モジュールでALを推進するために、授業設計の支援を行うインストラクショナルデザイナーを雇用する。
➢学生の主体的な学びを促すための学修支援ツールを整備する。
➢独自の学修評価ツールの開発により学修成果を把握し、成績評価基準を明確化・平準化する。
➢学修管理システムの整備と授業外学習時間の把握および改善を行う。
➢教学IRシステムの整備による事業成果のモニタリングと教育改善を行う。
【キーワード】
「モジュール型教養教育」「教学マネジメントシステム」「主体的学習促進支援システム(LACS: Learning Assessment & Communication System)」
【人材育成目標】
人材育成目標に関し、本学のDPでは
長崎大学は,4年間あるいは6年間の教育プログラムに定められた単位を修得し、
・自ら学び、考え、主張し、行動することができる。
・分野・領域を超えて活用できる汎用可能な技能を身につけている。
・専門職業人や研究者としての基盤的知識・技能を習得し、高い倫理観を身につけている。
・地球環境と社会の多様性を理解している。
・主体性をもって他者と協働できる。
・地域社会および将来世代に貢献するグローバルな視点を身につけている。
と認められた者に対し、学位(学士)を授与します。
と定めている。
【教育上の課題】
2012年度から始まった“モジュール型教養教育”という新しい教養教育は、一まとまりの科目群をパッケージにしたテーマ群の中から一つを各学生が学部の枠を越えて選択するものである。最大の特長は、1年次後期から2年次後期までの1年半かけて学部横断的な学生と教員団で、一つの“学びの共同体”をつくることである。本学では、全教員の1/3に相当する300名が全学モジュール科目を担当している。しかし、それらの教員に対して、授業設計の支援があまりなされていないのが現状である。また、学生にとっては、専門教育に比べて教養教育への意欲が低いことも問題である。科目群をまとめる責任者の過重負担、ALの設計および実施の不徹底、学生への意欲付けなど課題は多く、教員と学生の双方に対する支援体制が不十分であることを示すものである。
【これまでの取組、実績・成果】
<取組>
上記の課題を解決するために、教養教育担当教員への授業設計支援、学生に対する学修支援により、教養教育モデルを作り上げ、専門教育を含む学士課程教育全体に効果的・効率的なALを浸透させる。また、全学的な学修状況を可視化し、分析したうえでの効果的な教学マネジメントの推進を目指す。
具体的な取組として、ALの推進については、教員がスムーズにALを導入し、学生の主体的学びを促すことができるように教員向けの様々なコンテンツを開発した。 また、学修成果の可視化については、学内における各種調査等の把握・整理・精査を行い、入学時から卒業時までの一貫した調査に基づいた教学マネジメントシステムの構築を行っている。
<実績・成果>
・全学モジュールを通した効果的・効率的なALの推進に際し、FDの開催・各種の授業支援ツールの学生・教員への提供などを行ったことで、学生の授業外学修時間が増加および専門科目への波及効果があった。
・DPをもとに授業アンケート、学修行動調査、コンピテンシーテストの項目設計を行った。
・授業での成績評価、ポートフォリオにおける学生の自己評価、総合評価で活用するため、DPをベースとした間接評価及び直接評価共通のルーブリックを作成し、入学から卒業まで一貫して学修成果を確認できる段階に達することができた。
【今後の取組の計画】
本事業の取組により、ALを取り入れている科目数の割合が85%を超えたこともあり、学内での実践事例も蓄積されてきた。これにより、教員同士で授業改善について学び合うシステムが機能する土台ができあがった。AL推進はこれまで大学教育イノベーションセンターが中心的に行ってきたが、FDプログラムでも教員同士の交流の機会を増やすとともに、効果的な実践事例から学ぶ場としての授業観察を促進し、教員が相互に教え方を学び合うための共同体を支援する体制を整えている。
学修成果の可視化については、これまでの取組によって「一貫した教学マネジメントシステム」を構築し、3ポリシーに基づく「学修成果の可視化」の実現へ向かっている。特に、外部の社会人基礎力テストを見直し、本学のDPで求められている各能力が身につけられているかを測定するためのコンピテンシーテストを独自に開発するなど、補助期間終了後も継続的に事業実施可能なようにシステム整備を行っている。
【本取組における成果と社会へのインパクト】
●本事業で開発したAL推進のための各種ツール(「AL事例集」「LACS活用ガイドブック」「ティーチング・ティップス」「ラーニング・ティップス」「オンラインFDコンテンツ」など)は、学生と教員がALについて理解し、ALを効果的に進める上で必要不可欠なことが記載されていることから、他大学においても活用可能であり、波及効果も高いと言える。
●本学が構築している、入学時から卒業時までの一貫した調査に基づいた教学マネジメントシステムはPDCAサイクルを回すことで3ポリシーの実質化を目指すものであり、高等教育の質保証の観点から非常に波及効果の高いモデルであると言える。
【本取組の質を保証する仕組み】
教学マネジメントは、3ポリシーを実質化するために、各種調査やテストを通して学修成果を可視化し、卒業時にDPで求められている能力を適切に身につけられるように学生と教員双方がPDCAサイクルを回すための仕組みである。学修成果の可視化の機会としては「授業アンケート」「コンピテンシーテスト」「学修状況報告」が挙げられる。また、各種調査および総合評価は、DPを軸としたルーブリックに基づいているため、一貫した評価が可能となる。これらの結果は、学生の他の学修成果(レポート課題や提出物など)とあわせて、ポートフォリオに蓄積することで学生自身が学修の振り返りができるようにするとともに、卒業時に教員がDPで求められている能力をどの程度身につけられたかを総合評価する際の判断材料ともする予定である。
具体的な実施計画における指標 |
2014年度
(起点)
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2017年度
(実績)
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2019年度
(目標)
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ALを導入した授業科目数の割合 |
62.7% |
85.3% |
92.9% |
AL科目のうち、必修科目数の割合 |
100% |
82.4% |
92.3% |
ALを受講する学生の割合 |
100% |
100% |
100% |
学生1人当たりAL科目受講数 |
9.1科目 |
14.5 |
11.6 |
ALを行う専任教員の割合 |
86.7% |
96.7% |
100% |
学生1人当たりのAL科目に関する授業外学修時間 |
実施なし |
8.1時間 |
20時間 |
退学率 |
1.2% |
1.0% |
1.0% |
プレースメントテストの実施率 |
98.9% |
99.2% |
100% |
授業満足度アンケートを実施している学生の割合 |
32.6% |
100% |
44.6% |
授業満足度アンケートにおける授業満足率 |
33.2% |
71.1% |
70.0% |
学修行動調査の実施率 |
32.6% |
100% |
44.6% |
学修到達度調査の実施率 |
実施なし |
100% |
100% |
学生の授業外学修時間 |
4.8時間*1 |
11.6時間*1 |
27時間 |
学生の主な就職先への調査 |
有 |
無*2 |
無*2 |
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*1 2016年度までは1・3年生を対象とした「大学IRコンソーシアム学生調査」より算出し、2017年からは全学が対象の授業アンケートと
サンプリングによる「生活時間調査」によって算出している。
*2 学生の主な就職先への調査は2年毎に実施(2016年度に実施済)